現在地(2026-03-31)

このファイルは上書き更新される。最新の思考の全体像を示す。


研究の輪郭(サイト)

AIがデジタルサービスやプロダクト開発に急速に介在していくなかで、サービスの側は変わっていく一方、それを使う人間の認知の構造は根本的には変わらない。そのあいだで何が起きているのかを、ユーザーの認知・サービス設計・プロダクト開発などさまざまな観点から思考を回し整理していく研究。


研究が向かっている場所

AIの変化は速く、ある特定のテーマを深掘りしようとしても前提が次々と変わりうる。そうした変化の激しい領域で、サービスのあり方・ユーザーの認知・プロダクト開発の手順など、さまざまな観点から思考を回し整理していくこと——その営み自体を通じて、この領域における研究の仕方の手段を提示していくことが本研究の目的。

ひとつの発見や結論を出すことがゴールではなく、多角的に考え整理するプロセスそのものが、変化の激しい領域での研究のひとつのやり方を示す。実験・検証型ではなく、概念・理論的に積み上げていく研究スタイル。対象読者は実務者(デザイナー・プロダクト開発者)。教授からも「こういう研究があってもいい」「研究の仕方の手段を提示していく考え方もある」と方向性を肯定されている。

中間発表フィードバックとの関係(前提の整理)

中間発表では、他の先生から「デジタルサービス」の定義が広いので絞れという指摘があった。一方、研究室の教授からは、変化が速すぎて早期に一点へ絞り込むこと自体が難しいという事情も踏まえ、いろいろな角度から思考を回し、整理し、研究の仕方の手段や何らかの着眼点を提示していくという研究があってもよい、という意見を得てこの方針で進めることにした(詳細は logs/ゼミ02_2026-03-22.md)。

つまり本研究の「前提」は、狭いテーマへの早期固定ではなく、変動し続ける対象に対して多角的に思考を回し、論じを積み上げながら、研究のやり方や視座を読者に渡すことにある。ただし「絞れ」は無視したわけではなく、用語や対象の輪郭は書きながら明確化していく(本を書くようにまとめる)ことが求められる。

教授からは併せて、本を書くようにまとめること、斬新な着眼点を意識すること、ともアドバイスされている。


今の思考の地形

認知構造の不変性と、その上で起きている変化

ノーマンの7段階モデル——「目標 → 計画 → 行為の設定 → 実行 → 知覚 → 解釈 → 評価」——の認知プロセスの骨格は、AI時代でも変わらないのではないか。AIによってサービスやシステム、プロダクト開発自体は変わっていくが、人間がある目的を達成するために段階的に行動するという構造自体は変わらない。変わるのは中のインスタンスで、従来は頭の中で無意識的に行われていた目標の設定・意図の設計・行為の設計を、AIに伝えるために言語化する必要が出てくる。一方で実行はAIに自然言語で委任できるようになる。つまり認知負荷は「どう操作するか」から「どう言語化して伝えるか」へ移動している。

この変化はメンタルモデルにも及ぶのではないか。目的を達成するためにシステムを自分の手で操作していた時代には、ユーザーのメンタルモデルはシステムに対するものだった。これからは、自分の目的や意図を言語化し、自然言語で指示し、AIからの結果やフィードバックも自然言語で受け取るようになる。そうなると、ユーザーが目的達成のために認知すること・考えること・期待することは、「システムに対するメンタルモデル」から、より人間に期待することに近づいていくのではないか。

ペースレイヤリング(スチュアート・ブランド)の枠組みがこの見方を支持する。世界は変化速度の異なる層で構成されていて、最上層(ツール・モデル)は数ヶ月で景色が変わるが、最深層(課題構造・原理原則)はほとんど変わらない。7段階モデルの認知プロセス構造はこの最深層に位置するのではないか。

メンタルモデルのギャップは「縮まる」のではなく「性質が変わる」

従来のUIにおけるメンタルモデルのミスマッチは、学習によって安定していく。AIとのインタラクションではこの前提が崩れる。挙動が非決定的で、同じ入力に同じ出力が返るとは限らない。AIが人間らしくふるまうほどユーザーはより人間的な期待を投影するが、それは完全な対人モデルではなく、「人間っぽいが統計的で非決定的な相手」というハイブリッドなメンタルモデルが形成されるのかもしれない。このあたりはまだ形がはっきりしない。

言語化支援が新たなデザインの課題になりつつある

インターフェースの役割が「操作を補助する」から「言語化を補助する」へ転換しつつあるように見える。ChatGPT/Geminiのプロアクティブな深掘り提案、チャット欄の質問候補ボタン、Gensparkの統一入り口+目的別ショートカットの構成など、すでに「言語化支援」のUIパターンとして観察できる。

「作る側」と「使う側」で同じ動きが起きている

この構造変化は「使う側」だけの話ではない。情報設計の実務では、デザイナーの暗黙知(情報タイプ×認知タスク×コンテキストといった原理原則)を形式知化し、AIに渡せるプラットフォームとして組み込む動きが起きている。「作る側」も「使う側」も、深い層にある暗黙の知を言語化して外部に引き出すという同じ動きをしている。この対構造は、研究の位置づけを考える上で重要かもしれない。


漂っている問い

  • 「言語化負荷」がどのような条件下で増減するか——領域・ユーザー属性・AIの応答スタイルによる違い
  • 「ギャップの性質変化」を既存の評価指標(タスク達成率・SUS等)でどう捉えるか、あるいは新たな指標が必要か
  • 既存の設計原則(ニールセンの10原則、Amershi et al. 2019のHAI18原則)との関係をどう整理するか
  • 「行動契約」の設計原則——委譲の粒度・承認インターフェース・可逆性のデザイン
  • 「作る側」と「使う側」が同じ深い層を見ているとしたら、そのあいだはどう接続されるのか——暗黙知の言語化(作る側)と認知プロセスの言語化(使う側)は、どこかで交差するのかもしれない
  • ユーザーのメンタルモデルが「人間への期待」に近づくとき、それは完全な対人モデルなのか、それとも何か新しいカテゴリのメンタルモデルなのか

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